2021年1月15日金曜日

「構造人類学」は理性的である

 


レヴィ=ストロースの最大の功績は、民族学を「科学」にしたことである。
彼はレヴィ=ブリュルが未開民族の心性が文明人と本質的に異なることを示すために導入した概念である、神秘的融即(participation mystique)という概念を批判した。
そしてそれに基づく「トーテミズム」を「存在しない」とした。それは、西洋人の目に映った幻想でしかない。彼はトーテム動物とその体の部位を変換可能な図式に配分し、人間社会の要素に対応付けることで合理的に説明する(『野生の思考』参照)。この関係の格子こそが「構造」であり、そこに異質な神秘的思考の入る余地は無い。
全て人間の持つ通常の思考で説明できるのである。
したがって「未開人」の思考と「文明人」の思考は、その基づく方法は全く同じである。違っているのはあつかう対象であって、思考自体が異なるわけではない。

このようにして彼は未開人の思考が「文明社会の人間とは異なる、何か神秘的な力」に基づいていることを、言語学や数学の概念を援用することによって否定したのである。

これが「構造人類学」の基本的態度であり、レヴィ=ストロースがデカルト以来の伝統である「大陸合理論」
を継承していることを示す証拠である。

これに基づけば「シャーマニズム」や「変性意識状態」も、幻想でしかない。
事実レヴィ=ストロースは『構造人類学』において、呪術師は神秘的な力を演じているだけである、と論じる(同書第9章「呪術師とその呪術」、p.183-)。
呪術が実際に効果を発揮するためには、非治療者の属する集団が、呪術師を信じている必要がある。
それは、呪術師が本物であるか、ペテン師であるかを問わない。
なぜなら、本物の呪術師は「集団の期待」によって、生み出された幻想にすぎないからだ。

レヴィ=ストロースが「シャーマニズム複合」と名付けた要素は

① シャーマン自身の経験(特殊な心理状態を演じる技術)
② 患者の経験(シャーマンの治療によって、治るか、治らないかを経験する)
③ 公衆の経験(公衆がどれだけそれに引き込まれるか、それによって知的および情緒的な満足を得るかを経験する)

である。
シャーマンは自分の内的経験を持ち、非治療者と公衆は集団合意を持つ。

呪術師と呪術は、これらの要素が複雑にからみあった状況ではじめて成立する心理的な存在であり、別にそこに精霊の存在が無くともよい。精霊自体が「舞台装置」の一つである。

このように「構造人類学」は、それまでの民族学や宗教学が行ってきた「不毛な」繰り返しを、論理や数学で理性に置き換える傾向を持っている。
これによってはじめて民族学は科学的になったのである。