2020年6月10日水曜日

蟲師(むしし)



もう17年ほど前に書かれた『蟲師』という漫画がある。
私はある人からこの漫画の存在を知らされたが、当時は気持ち悪くて読まなかった。
実写映画化(オダギリジョー主演)やアニメ化もされるほど売れた漫画だったらしいが、どうも「虫」が出てくるのは苦手だ。

山に登るようになってから、私は自分が少し虫に好かれることに気が付いた。
この漫画の主人公「ギンコ」も、虫を寄せ付ける体質だという。

ただ、この漫画に出てくるのは、普通の昆虫ではなくて、山の精霊とか妖怪に近いものだ。
これをコントロールする力を持つのが『蟲師』という存在らしい。

いろいろな種類の「蟲」が登場するが、人体に寄生したり、襲い掛かってくるものなど、色々いる。
「蟲」は「光酒(こうき)」という、酒の形を取ることもあったりする。
一言でいえば、「山の神秘的な力が形を取ったもの」である。

この間山の中で纏いつかれたのは「ムグラ」という蟲に近い。これは山の神経のようなもので、蟲師はこれによって山の様子を知ることができる、という。

『蟲師』の作者は多分自然が大好きな人だと思う。
そのため自然の描写が美しく、なかなかよさそうな漫画だと思った。

山には必ずしも美しい風景だけがあるのではない。目をそむけたくなるような大自然むき出しの光景を目にすることもある。
動物の死骸、排せつ物、それに群がるウジ虫やハエ・・・
病気のために変形した植物等々・・・
普通人はそういうものには目もくれないで、先に進もうとする。
しかし、それも素晴らしい風景を構成している一要素であることは、疑いない。

山の中で意識が研ぎ澄まされてくると、普段そういうものを直視することは難しいはずなのに、何も思わなくなってしまう。
認識のシステムが、だんだん自然の側に移動すると、そうなるような気がする。

これが本当に進めば、大自然と一体になるところまで行くのだろうか?

新型コロナウイルスは、もともと中国雲南省の山奥の洞窟にいた「キクガシラコウモリ」に由来するウイルスらしい。これは普通なら人間界に出てこないウイルスであるはずであった。
しかし今、世界中に恐ろしい惨禍をもたらしている・・・

人里離れた山奥には、今でも未知の「蟲」たちが存在しているのだ。