蛍石の蛍光を見ていると、
もうおれは死んだと小十郎は思った。そしてちらちらちらちら青い星のような光がそこらいちめんに見えた。「これが死んだしるしだ。死ぬとき見る火だ。熊ども、ゆるせよ」
人が死ぬときには、形容しがたい、目がつぶれるような、強烈な光を見る、という。
『チベット死者の書』などにも、その光の事が書かれている。
この書では、青、黄、赤、緑、白の5色の光が、死者の前に次から次へと現れる。
それに従って行くと、もう二度とこの世に戻ってくることはない。
『今昔物語』などにも、臨終儀礼に「五色の糸」「五色の幡」の話がある。
実際「臨死体験」をして、この世に戻ってきた人の話では、このような光は実際に見えるようだ。(戻ってきた、ということは、その光についていかなかったのであろう)
特別な脳内物質が分泌されることが原因らしいが、実際に見た人の話だと「どのようにも、説明できないし、説明することに意味は無い。あなたにはわからないから」だそうだ。
生きている人間には、関係ない、という意味だと私は受け取った。
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Argonne National Laboratory - originally posted to Flickr as Advanced Test Reactor core, Idaho National Laboratory Uploaded using F2ComButton |
青い光で有名なのは、「チェレンコフ放射」の光である。光は真空中を進む時には、光速度(299792458m/s。秒速約30万キロメートル)で進むのであるが、水の中ではこのスピードが75%ほどの速度になってしまう。
しかし、核分裂で生じた荷重電子は、その中を真空中で光が進むのと同じスピードで進む。これによって水の電磁場が一時的に乱される。電磁場はすぐにもとに戻ろうとするが、その時に光を発するのが、「チェレンコフ放射」の原理らしい。
あたかも、蛍石が発光するときに、紫外線や熱で分子が励起されて、元に戻ろうとするときに発光するのに似ている。
平常の状態が乱されて、元の状態に戻ろうとするときに、光子を発するのだ。
これは、「アントラニル酸(麻薬原料指定されている)」という物質を持った細胞が死の瞬間に壊されて、中の物質が出てきて蛍光するらしい。チェレンコフ放射や蛍石の蛍光とは、全く原理が違うようだ。
この現象は死の瞬間が一番強く、その後すぐに消える。
(死の瞬間の苦しみを、アントラニル酸が消すのだろうか?)
しかしながら、「何かが元に戻るときに蛍光を発する」という点は、共通している、と感じる。世の中は不思議だ。
たぶん、人間も死ぬときに同じような光を発するのであろう。
「死ぬときに見る光」は、これなのかもしれない、と思った。