最近、いわゆる「ひすい海岸」と呼ばれる富山から糸魚川の北あたりの海岸を歩いている人が多くなった。
マスコミや雑誌「ミネラ」で紹介されたり、糸魚川市による大々的な観光アピールが功を奏して、多くの人が訪れるようになってきたのだと思われる。
それにつれて「ひすいハンター」になりたい、という人も増えたのであろう。
あまり言うのも夢を潰すようで気が引けることもあるが、現実は厳しい。
1.ひすいを拾えることは、めったにない
まず、最近のブームでひすいはめっきり減少し、もはや拾いつくされているのではないか?と思われる。以前ですら「めったにない」石であったのに、最近では真にレアになってしまった感がある。
また上流の治水工事や海岸工事(日本海の荒波で道が破壊されたりするので)によってテトラポットが海に投入され、海岸の様子が様変わりしてしまった。
以前のように「石ころ」でおおわれた海岸、ではなくて砂が多くなってきた。
砂が堆積すれば海岸の面積が増え、陸地は浸食されない。
これは私たちが安全に道路や鉄道を利用できるようにするための必須の措置である。
2.海岸に落ちているひすいは金銭的価値がない
たとえどんなきれいなひすいを拾ったとしても、それが「宝石」としての価値があるとは限らない。
宝石加工の人は、世界的なレベルで原石を見るので、海岸に転がっているようなレベルの石を加工しても利益にはならない。
もっとも、「おみやげ」としてたくさん加工されてはいる。
しかし、それは本当の”宝石ひすい”ではない。
ひすいの本来の価値である「宝石」としての用途に使用するために、宝飾用の加工業者はミャンマー産のひすい原石を輸入している。
3.採取自体が法的にはグレーゾーンであり、基本的に転売できない
現在、オークションや市場に出回っている転石のほとんどは「過去のデッドストック」として転売されているのが現状である。
海岸から拾った石を転売するには、当局の許可が必要になると思われるが、まずそういう許可は出ないと思われるので、法的には微妙なところである。
ただし、大幅な現状変更を伴わない軽易な石拾い程度の行いは黙認されている。もちろん、これは自然公園や国の指定地域以外での話で、指定地では「たとえ小石一つ拾っても」犯罪になる。
また糸魚川は「世界ジオパーク」の指定地であり、規約に「鉱物を転売してはならない」と定められている。
以上のようなさまざまな制約があり、かつ、ひすいを拾える可能性は極めて低いので、「ひすいハンター」で生計を立てることはできない。
ただ、海岸を歩いて、きれいな空気を吸い込み、健康になれる、という価値は大きいであろう。
不安定な足場を歩くので体幹が鍛えられ、転ぶことが少なくなる。
また、精神的にも爽快になれる。