前回はひすいの化学構造式からすれば、「特別珍しくもない物質で出来ている」という事を言った。
今回は「ひすいの怪」というか、謎というか、複雑だ、ということをお話ししよう。
別に「怪」といっても、スピリチュアルな話ではなくて、文字通り”ひすい”の定義が「あやしい」ということを。
ひすいはたくさんの「ひすい輝石」の結晶が集まって出来たものだ。
これに類するものに、石英の細かい結晶が集合して出来た「玉髄」というのがある。
玉髄はほぼ、石英で出来ており、あまり不純物は含まないように見える。
しかし、同じような構造のはずの「ひすい」には、いろいろな鉱物が混じる、というのだ!
しかもそれを「ひすい」と呼んでも構わない、という。
混じる鉱物は「曹長石」「ぶどう石」「ソーダ珪灰石」「蛇紋岩」「ロディン岩」など、たくさんある、という。
この時点で、おかしなことに気づく。
ひすい以外が混じった石を、もし”ひすい”と呼ぶとすれば、例えば「金」のイオンを含む「海水」も「金」だと呼べることになるではないか?
事実、石英はいろいろなものが混じるが「金」をたくさん含んだ石英は「金鉱石」と言われる。実際はほとんどが石英である。
しかし鉱物の「金」はまさにレアメタルであり、曹長石からケイ酸分子を一つ取っただけのひすいとは似ても似つかない。
それと同じように「ひすいが少し混じっているから、ひすいである」というならば、そこら辺の石ころがみな「ひすい」になってしまう。なぜなら、前回書いたように、長石類は地殻の中での割合が一番多いから。
”ひすい”の呼称はやはり「ひすい輝石」が高い割合で(おそらくほぼ100%)集まったものに対してのみ使われるべきであって、それ以外の「すこし混じった鉱物」に対しては、使ってはならないのだ。敢えて言えば、そういう石は「ひすい輝石鉱石」とでも呼ぶべきである。
しかし実際はそうではない。少しでも「ひすい輝石」が混じっていれば「ひすい」だと言っている。
本来なら「不純物」が多い「ひすい」は、精錬されてはじめて「ひすい」と呼ぶべきだ。
金の混じった「金鉱石」が、「金」と呼ばれないのと同じである。
この辺りがはっきりしないことが、「ひすい」の定義を複雑にし、分かりにくくし、あいまいにしている。
これを私は「ひすいの怪」だと考えている。