人類が鉱物を利用し始めてから長い時間が経過するが、後世になるにつれ「重金属」を利用することが多くなってきた。
最初はたぶん、石器などに「黒曜石」(天然のガラスだ)を利用したり、それこそ威信財としての「ひすい」を利用する程度だったと思われる。
そのうちに「砂金」を見出し、その稀少性を利用して「経済社会」を構築するまでになった。
また「鉄」を武器として使用するようになり、大規模な戦争も起るようになった。
このように、人類はどうも「重金属」を利用するようになってきた辺りから、いろいろな問題を抱えるようになってきたのである。
なので、重金属を含む鉱物を目の前にすると、複雑な気持ちになる。
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石英に含まれる銅の鉱物。人体にとって有害な物質である。 |
「重金属(比重4以上の金属)」は、人類にとって有用なものである一方、「毒物」でもある。
このような金属を含む鉱床は、日本にもたくさんあるが、多くは「スカルン鉱床」である。
これは石灰岩の大規模な塊に花崗岩のマグマが接触した時、それに含まれる酸性の熱水により重金属が集まることによってできる。石灰岩は熱によって大理石に変性する。
集まるものは、金、銀、銅、鉛、亜鉛、鉄などの重金属。そしてそれと同時にヒ素、カドミウム、水銀などの人体にとって極めて有害な物質も集積する。
それらの金属の需要が増した奈良時代や、戦国時代、さらに明治から終戦後までの間、日本でもこれらの金属が採掘されていた。
当時は公害に対する意識が存在せず、金属を精錬したカスの中に含まれていた有害物質は、そのまま川に流されたりしていた。
明治時代以降になってようやく、これらの有害物質が環境や人体に及ぼす悪影響が認識されるようになってきた。
有名なのが、足尾銅山の公害、神岡鉱山から出たカドミウムによるイタイイタイ病、ヒ素による土呂久の公害、有機水銀による水俣病などである。
神岡鉱山の場合、現在和佐保堆積場という大規模な鉱滓ダムが作られてその中に有害なカドミウムなどが堆積されている。
ここには以前数回訪れたことがあるが、一面灰色の沼のようになっている。
排水の中の有害な物質を吸着させるために、石灰が使われているようである。
草も生えておらず、異様な雰囲気であった。
神岡鉱山は飛騨片麻岩に含まれる石灰岩を、船津花崗岩の中に含まれる熱水が交代したスカルン鉱床であり、方鉛鉱、閃亜鉛鉱などを産し、主に亜鉛、鉛を採掘していた。
イタイイタイ病の問題があって以降、閉山している。
カドミウムは腎臓や肝臓を侵し、その結果カルシウムが体外に排出され、深刻な骨粗しょう症を起こす。富山には長年この病に苦しんでいる人がいた。
科学者と医師による調査の結果、神岡鉱山の排出する鉱滓に原因があることが判明し、鉱山側は敗訴した。
以上のように、重金属は人間にとって欠くことのできない重要な物質である一方、非常に強い毒性を持つ物質でもある。
人類の発展は、このような二面性の中にあるのである。